社内研修「感覚統合の発達と支援 ― 子どもの隠れたつまずきを理解する ―」 第6章~第8章

2025/10/29

先日マリリンスポーツ塾Go 顧問である、
元白梅学園大学 教授 増田 修治先生による「感覚統合の発達と支援(第6章~第8章)」についての研修を行いました。

第6章「発達性失行症(行為機能不全)」

【発達性失行症(行為機能不全)とは】

発達性失行症(行為機能不全)とは触覚の刺激を妨げ、運動プランニングの能力を損なう脳機能不全のことです。
運動プランニングとは、なじみのない行為を計画し、遂行する能力です。

行為機能不全のある子どもは運動プランニングが遅くて非効率的ですが、失行症の子どもになると運動プランニングすることがほぼできません。
行為機能不全の問題そのものは目に見えません。
そのため、このような子どもたちを支援しようとする時には、問題はその子の知能と筋肉の間の「橋渡し」にあります。

【発達性失行症(行為機能不全)の症状】

行為機能不全のある子どもは運動プランニングが苦手なので、一つひとつの課題に対して運動プランニングたくさんやりすぎることがよくあります。
運動やゲームを覚えようとする時には、なかなか身体に染みつかないので、運動プランニングを何度も繰り返さなくてはなりません。

定型発達児

操作が必要なおもちゃを目の前にすると、その扱い方をたちまち理解する
例)・樽の形の遊具の中に入って転がる
  ・ジャングルジムによじ登る

行為機能不全のある子ども

自分の身体とその物で何が出来るかに対する感覚が希薄なので、楽しめるチャンスに気がつかない
→身体感覚の発達が不十分なので、大型おもちゃはほとんど意味を持たないこともある
例)・樽の中に入っても転がろうとは思いつかない。あるいは、ただのゴミ箱だと思って見向きもしない

行為機能不全があるが知的機能が高い子ども:

他の子の遊んでいる様子を見て何をしているのか理解できることもあるが、そのおもちゃで遊ぶための
運動プランを立てることができない

→そのおもちゃで遊びたいという欲求に突き動かされて、おもちゃを過度に強く引っ張ったり押したりして壊してしまうこともよくある
→動作がぎこちないせいで事故にあいやすく、乱雑になる

ある子どもは「するのと考えるのを同時にできない。まず考えて、それからしないとダメなんだ」と言いました。
行為機能不全のある子どもにとっては、他の子がやすやすとできることに全精力を使い果たす価値があるとは思えないのです。

【子どもの行為機能(運動プランニング)能力の発達を支援する方法】

●子どもは新しい活動を上手くおこなおうとすればするほど、やり損ない、協調が上手くできず、イライラを募らせてしまいます。この  ような状況を予想して、安心させるような言葉をかけるようにし、最初の数回は手を貸しながら行ってみましょう。

●様々な活動を対処しやすく達成可能な小さいステップに分割することで、子どもは自分にもできるという体験ができ、自尊心を高め  ることに繋がります。

●人の動作を観察し、真似する遊びをすることで動作のプランニング能力を高める効果があります。

第7章「触覚防衛」

【触覚防衛とは】

触覚防衛は、とらえにくいが深刻な神経障害です。学習障害、発達遅延やもっと深刻な障害のある子どもに見られることがよくあります。

触覚防衛とは、触覚刺激に対して否定的かつ情動的に反応する傾向のことです。
ほとんどの人は、不意に誰かに触られた時などに不快な触覚刺激に対して否定的な反応をしますが、触覚防衛の子どもはもっと多くの触覚刺激にそのような反応を示します。

【触覚防衛の症状】

身体に触れる衣服の感触や皮膚そのものからの感覚は、誰の神経系にも絶えず入ってきています。

ほとんどの人はこうした感覚を抑制し、神経系がその刺激に反応しないようにしています。
触覚防衛の子どもは、この抑制活動が十分でなく、この種の感覚を(その他の多くの感覚も)不快に感じ、しょっちゅう動きたがります。
皮膚や衣服が快適に感じられないため、学校の授業に集中するのはとても難しいのです。

このような子どもは、腕が出ないように長袖のシャツを好んだり、寒くない時でもセーターを着たままでいたりします。
またウールや一部の合成繊維、きめの粗い素材など特定の生地を不快に感じる子どももいます。

【神経系で何が起きているのか】

触覚刺激への反応は2種類、あるいは2つのモード動物の危険から守るために進化した防衛反応(保護反応)、特定の刺激だけ識別して反応する弁別反応があります。

脳は防衛モードと弁別モードの間の触覚の流れのバランスを取るのに、その他の感覚(特に前庭感覚と固有受容感覚)も使います。
そのため前庭感覚と全身からの触覚と固有受容感覚が統合されていないと、触覚刺激に対する2つの反応モードのバランスがうまく取れません。また触覚防衛の子どもは防衛的活動があまりにも多すぎる一方で、弁別的処理が十分に行われません。様々な感覚が何を意味するかを探し当てるよりも「闘うか、逃げるか」で反応しがちなのです。

第8章「視知覚と聴覚言語の障害」

幼稚園の年齢では、脳が読み方を学べる状態になっている子どももいるが、活字を視覚的に処理して話し言葉にする能力が不十分な子どももいます。
このような子どもの場合、机の前に長い間座っていると発達の促進に必要な基本的な感覚(前庭覚、固有受容覚、触覚)体験の多くが出来なくなってしまいます。感覚統合機能が不十分な子どもの場合は視覚処理を支え、長期的に見ればより早く効果的に読み方を学習するのに役立つ能力を高められるまで読み方の指導は遅らせ、前庭覚、固有受容覚、触覚を処理する脳の機能を発達させる必要があります。

【視知覚の問題】

前庭覚、固有受容覚および視覚の情報が統合されて、空間の中で身体を上手く操るのに使われる「地図」が形成されます。
この地図がないとものにぶつからずに走ったり、友達に向かってボールを投げたり、紙の上に真っすぐ線を引いたりするのに苦労することになります。

前庭覚、固有受容覚、視覚の感覚は脳幹で統合された後、大脳半球のいくつかの領域に送られ、さらに特殊化された処理が行われます。これらの大脳処理過程のおかげで、小さい部分の細かい所まで背景と関連付けながら見ることができます。

首の筋肉からの刺激には視知覚にとって極めて重要な働きがあります。子どもがうつぶせに寝て、重力に逆らって頭を上げているとき、筋肉の収縮によってたくさんの固有受容入力が生成され、その入力が脳幹に送られて視覚入力の処理を助けます。この姿勢を取っているときは重力受容器が異なる刺激を受け取り、子どもが動くと、前の前庭感覚も加わって視知覚をさらに助けます。
このためセラピーでの多くの活動は、子どもがうつ伏せになって身体を動かしている状態で行われます。

【聴覚と言語の問題】

脳はそれぞれの領域が他の多くの領域と相互作用しながら、ひとつの全体として働く傾向があります。
脳全体のプロセスが上手くいくことで、子どもは簡単にかつ効率的に運動プランニングすることができます。話すことや、特に話し方を学習することには非常に多くの運動プランニングが必要になります。
まず、頭の中の命令に従って運動行為を始める能力が必要です。次に一連の動きを順序よく行って音を出し、単語にしなければなりません。さらにどの単語の次にどの単語が来るのかを脳の中で決めなくてはなりません。はっきり発音するには口、舌、唇の特定の運動が必要になります。
以上の要件は、全身を使う動作のプランニングにかかわる要件と本質的に同じです。発話や言語の問題のある子どもが発達性失行症(行為機能不全)を併発している場合が非常に多いのも理解できます。

まとめ

当たり前に行っている日常生活も脳の中で様々な運動プランニングを瞬時に行っているからできているのだと改めて感じることができました。
マリリンスポーツ塾Goに来ている子どもたちも一人ひとり得意、不得意があるのでその子の得意なことを伸ばし、苦手なことには繰り返し挑戦しながら成長をサポートしていきたいと感じました。

参考文献

A・ジーン・エアーズ著

『感覚統合の発達と支援 ― 子どもの隠れたつまずきを理解する ―』(金子書房)